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【読書感想】最良の嘘の最後のひと言/河野裕

最良の嘘の最後のひと言 (創元推理文庫)

最良の嘘の最後のひと言 (創元推理文庫)

 

河野裕さんの「最良の嘘の最後のひと言」を読んだ。

 

世界的な大企業ハルウィンは、年収8000万の破格の報酬を約束し、1名の社員を募集していた。年齢、性別、経歴一切問わず、ただ一つの条件は「本物の超能力者であること」。そして3月31日18時、残った7名の候補者は、1通の採用通知をかけた最終試験に挑む。不幸な未来が見える「メッセージ」の能力者として参加した大学生・市倉は、同じ参加者の少女・日比野と組むことになるが…。制限時間は日付が変わるまでの6時間。策略に満ちた試験の幕が上がる。

 

というわけで、大企業への破格の条件での就職をかけた能力サバイバルものといった感じの作品だ。まあ、こんなの、面白いに決まっているのである。この設定でつまらなかったら、正直作者の力量を疑うし、おいしいネタをつまらない作品で消費しやがって!と怒りすらわいてくるであろう。その点、安心と実績の河野裕さん、さすがのハイレベルな内容に仕上げていただいた。

 

能力バトルではなくて能力サバイバルものと書いたのは、基本的にこの作品ではあまり露骨な暴力沙汰は出てこないからだ。ハルウィンの課した試験の条件で、法律に裁かれるような行いをしたものは失格というものがあるし、そもそも出てくる能力者も、相手の視界を操ったり視界にあるものと手の中のものを入れ替えたり、暴力的な能力は出てこない。バレなきゃいいの精神でやらかすものもいるが、基本的にはだましだまされの頭脳バトルといった趣だ。

 

読んでみての感想としては、すごく面白い、面白いのだが、感情移入してぐっと引き込まれるというよりは、騙しあいや意外な展開を楽しむといった感じの作品だった。その理由としては、参加者たちが全員真の目的を最終盤まで明かさないので、気持ちを人物に寄せて読みにくいというのが一つ。もう一つは、試験からリタイヤしたはずの候補者が、生き残りの候補者に協力するという名目で舞台に残り続けるので、あまりメリハリ感がないのが一つ。そして、なんだかんだ手に入るのがお金と社会的ステータスということで、そんなものなくても普通に生きてはいけるわけで、試験自体にさほどの切実さがないこと、あたりだろうか。

 

そういうとあまり良くない印象を与えてしまうかもしれないが、間違いなく面白いのだ。特に自分は、この手の作品は大好きで読んだり見たりしまくってきたわけで、作者がどんな騙しのテクニックを繰り出してくるのかを楽しませていただいた。

 

イメージとしては、作者が「食らえ!『リタイヤを装って実は生き残っていた』!」「行け!『ダミーの候補者』」「秘儀『候補者の入れ替わり』!」「まだまだっ!『実は無能力者だった』」などと攻撃してくるのを、「その攻撃は知ってる」「その技ももう『見た』」「ふっ、あの作品と同じネタとはな」などと言いながら受け流していくという戦いが私の脳内で展開されていた。

 

この(私の脳内の)戦いの結末であるが、最後の最後、あと30ページくらいの段階で「それで終わりのようだな…すべて出し尽くしたようだが、私の勝ちだ…」と勝ち誇っていたところ、「まだ、終わりじゃない!これが最後の一撃だああああ!」と放たれた渾身の一撃で木っ端みじんに粉砕され、私の完全敗北となった。つまりは、最後の最後には騙されたってことだ。

 

能力者による騙し騙されのバトルロイヤルものの作品はいろいろとあると思うが、その要素全部入りと言ってもいい作品だと思う。登場人物の内面の描写をとことん省いた(これにもちゃんと意味があるのが素晴らしい)代わりに、この手の作品に出てくるありとあらゆる仕掛けやトリックが盛り込まれ、ページ数のわりには読みごたえがたっぷりな内容になっている。自分と同じように、このジャンルの作品が好きな人はぜひ読んで欲しい。