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【読書感想】北天の馬たち/貫井徳郎

貫井徳郎さんの「北天の馬たち」を読んだ。 

北天の馬たち (角川文庫)

北天の馬たち (角川文庫)

 

横浜の馬車道で、母と喫茶店を営む毅志。ある日、貸し部屋にしていた2階を、皆藤と山南と名乗る男たちが借りることになった。そこで探偵事務所を開いた二人は、経験豊富な大人で、自由に、人生を楽しんでいた。不器用で口下手な毅志は二人にあこがれ、少しでも近づきたいと探偵仕事を手伝うようになるが…。

 

貫井さんらしい、一筋縄ではいかない曲者なミステリだった。一見すると、二人のベテランと新人がトリオを組み、様々な事件を解決していくオーソドックスな作品に見える。特に、冒頭、喫茶店の2階に二人が転がりこんでくるくだりにいたっては、古き良きミステリの風格を漂わせており、横浜馬車道の雰囲気もあいまって、クラシカルな探偵小説の趣すらある。

 

ところが、実際に読んでみるとだいぶ印象が異なる。最初の事件は、女性に乱暴したという男を、わざと窃盗に走らせ、現行犯で逮捕させるというもの。ところが、この男、女性に乱暴を働くようなタイプにはみえず、むしろ女性に苦手意識を持っている様子。さらにいうと、いくら悪者を懲らしめるためとはいっても、わざわざ別の犯罪を犯させて逮捕させるというのはいくら何でも遠回りすぎやしないか?

 

二つ目の事件は、ある結婚適齢期の女性に素敵な男性を引き合わせて欲しいという、これまた奇妙な依頼から始まる。3人は、首尾よくターゲットをとある男性に引き合わせることに成功するのだが、女性の側が問題のある行動に出る。裏に潜んでいたこの問題を解決して一件落着となればいいのだが、解決した後も奇妙な後味が残る。どの事件をとっても、二人のベテランは毅志になにかを隠しているようなのだ。

 

そして3つ目の事件…ほかならぬ毅志自身が暴漢に襲われたことに端を発する事件によって、隠されていた事件の本当の意味が明らかになる。それぞれの事件に残っていた違和感や事件同士の意外なつながりなど、鮮やかにまとめて見せたのはさすがだ。それまで指示を受けて動くだけだった毅志が自ら動く展開も良かった。

 

通して読んでみての印象としては、個々の事件は違和感を持ったまま終わって、最後に全ての謎が解けるという、短編集の皮をかぶった長編という感じ。なかなか斬新な構成だったと思うのだが、よく考えると、「個々の事件の謎解き」部分を端折った手抜き短編集だったともいえる気もする。良くできた連作短編集は、個々の事件においても十分以上の謎解きを見せつつ、全体での仕掛けも両立させるものだから。

 

そう考えると、やはりちょっと物足りない作品ではあった。貫井さんは、ミステリでは事件の謎が解けると誰が決めた?的なことを言ったりする人だから、個々の短編に謎解きを与えなかったのもあえてなのかもしれないが…。