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【読書感想】ブギーポップ・ミッシング ペパーミントの魔術師/上遠野浩平

ブギーポップの原作を読み返すプロジェクト第6弾。 

ブギーポップ・ミッシング ペパーミントの魔術師 (電撃文庫)

ブギーポップ・ミッシング ペパーミントの魔術師 (電撃文庫)

 

これ、あんまり印象には残ってなくて、アイス作る話くらいしか覚えていなかったんだけど、読んでみたらやっぱりアイス作る話だった。

 

その特異な風貌から、周囲から隠れるように暮らしていた軌川十助は、天才的実業家の寺月恭一郎に見いだされ、「おいしいアイスを作る」という唯一の、そして才能というにはあまりにも異常すぎるその特技によって頭角を現していく。それは、アイスで世界を変えようとした一人の魔術師の栄光と連絡の物語…。 

 

と、そんな話であるのだが。問題は、十助自身は全くの悪意も邪心もなく、ただひたすらに食べた人が喜ぶようなアイスを作りたいというだけの人間なのだが、彼の作るアイスにはある効果があったということだった。それは、食べた人の心を満たし、結果としてその対象から闘争心とか敵対心とか、そうした「心のトゲトゲ」を奪い去ってしまうというものだ。それは人を穏やかな満足感に浸らせてくれるが、同時に彼・彼女が何かを目指そうとする力を奪いとってしまうということでもあって…。

 

この手の、人の心に干渉してどうこうしてしまうという能力は、ある意味では強力な戦闘能力などよりもはるかに強烈に世界を変える可能性を秘めているものであり、ということは必然的に統和機構やら「世界の敵の敵」たるブギーポップに目を付けられるたぐいのものであるわけなのだった。

 

物語の構成としては、前半は十助がアイスの会社を立ち上げ、有名になっていくが統和機構の合成人間(たち)に狙われてしまい…という話。後半は、十助の周囲の人々の視点から物語を再構成しつつ、その後の結末を描いていくという感じだ。自分の記憶としては前半までしか覚えてしなかったので、後半はある意味新鮮に読むことができた。

 

まず思ったことは、十助の純粋なる思いが、結果的に多くの人を救い、同時に堕落させてしまったことはなんて皮肉なんだろうということだ。そして十助もまたそのことに気づいてしまうという絶望。だが、後半では彼のその先へと突破してこうという意思を見ることができてほっとしたし、嬉しかった。あと、ブギーポップも意外と柔軟な対応をすることもあるんだな、と感じたりもした。自動的で否応なしに世界の敵を倒すイメージだったが、わりと融通がきくんだな。

 

ちょっと残念だったのが、十助の唯一無二のパートナーとして登場する楠木玲という女性がいるのだが、彼女をもっと掘り下げて書いて欲しかったということだ。とある理由から途中で十助の前からフェイドアウトしてしまうのだが、それまでの段階で玲と十助の関係性が(なんとなくわかることはわかるのだが)さほど描写されてしなかったので、なんだが唐突に感じてしまったし、そこで十助が受けたショックにいまいち感情移入できなかったのだ。

 

それは、もう一人のヒロイン格のような感じで登場するTVレポーターの古北園子という女性に尺を割き過ぎたからではないかと思っている。彼女は十助の店が評判になっていく起爆剤としての役割を果たした後は、ほとんど物語上の役割を与えられることなく、最後は退場してしまうのだが、それにしてはかなり登場する場面が多いのだ。正直、彼女の描写に割いたページを、十助と令の関係を描くことに費やしてほしかった。それならもっとその後の展開に入り込めたと思うのだが…。まあ、そんなことを言っても仕方ない。

 

久しぶりに読んだ「アイスを作る話」は、バトルあり、恋愛(かもしれない)要素あり、成長物語ありの、なかなかに盛りだくさんな物語だった。例えていうなら、濃厚なチョコレートアイスと甘酸っぱいストロベリーと、そして爽やかなペパーミントの三段重ねのアイスというところかな(上手いこといってやった)。

 

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