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【読書感想】フライ・バイ・ワイヤ/石持浅海

嘘だろ? 驚いた。びっくりした。驚愕した。信じられない。こんなことがあるなんて。石持作品で涙する日が来るとは…。 

石持作品は、閉鎖環境で事件が起きて、何らかの理由で警察に頼らないで自分たちで事件を解決しようという流れになり、関係者がワイガヤして犯人を推理していくというパターンが多い。すごくロジカルで、提示される謎も魅力的で、とても完成度が高いのだが、ただ一つ、登場人物の考えや行動に全く共感できないという問題がある。それをリアルな人間の行動という感じで書いているので、失礼ながら、作者自身が少々ズレている人なんだろうと思っていた。なので、自分にとって石持作品は、感情が動かされることはなく、あくまでミステリとしてのアイデアやテクニック、ロジックの意外性を楽しむものという感覚だった。この作品を読むまでは。

 

前置きが長くなってしまったが、本作は近未来の高校を舞台にした青春SFミステリだ。とある高校の、工業系の技術者を目指す優秀な学生が集まるクラスに一人の転校生がやってくる。転校生の名は一ノ瀬梨香。ただし、その姿はロボットそのものだった。病気のために学校に通えない学生のため、遠隔操作可能な高性能ロボットを使って高校生活を送るという、新技術の実験場としてこのクラスが選ばれたのだ。最初は戸惑う生徒たちだったが、もともとロボット工学に親和性の高い学生が集まるクラスだったので、次第にロボット=梨香は一人の友人として溶け込んでいく。

 

そんなある日、事件が起きる。一人の女子生徒が頭部を殴られて殺されたのだ、その時、現場には後背部を血に染めたロボット=梨香の姿があった。梨香の扱いをめぐってクラスが動揺する中で、委員長であり梨香の世話役でもあった宮野隆也は、親しい友人たちとともに、事件の真相を推理しようとする。なぜ事件は起こったのか。梨香は、事件にかかわっているのか?

 

自分は、ロボットが転校してくるという設定からは暗殺教室の律を、病気の生徒が遠隔操作で登校するという設定からはある有名ライトノベルのキャラクターを連想したが、実はこの連想がかなり作品の核心に迫るものだった。

 

それはさておき、ロボット=梨香に対して、生徒たちが様々な反応をする。それが各生徒の性格を演出することにつながっている。結果、石持作品にありがちだった作中人物の不自然さを感じることがなく、素直に読むことができた。あるものはロボットの技術に関心を持ち、あるものは優秀さに脅威を覚え、あるものはクラスへの影響を懸念する。そんな中で、ロボット=梨香を一人の友人であり女子生徒として接する隆也には共感したし、その態度が結果として事件解決につながった結末には爽快感があった。

 

ミステリとしてはさすがの石持クオリティできれいにまとまっているし、何よりも、謎が解けたあとの一連の展開に、不安や悲しみ、喜び、絶望と希望が詰まっていて、これぞ青春小説という、感情を揺さぶられる幸せな読書体験ができた。今まで石持作品に抱いていた印象が180度変わるほどの感覚だった。ミステリでSFで青春小説な作品が好きな人には心からおすすめできる作品だ。

 

最後に。もしもこの作品を読む人がいたら、読み始める前に、まずは表紙のイラストをじっくりと見て欲しい。なんのへんてつもない高校生男女のワンシーンだけど、最後まで読んでその真の意味が分かった時、きっと温かい感情がじわりと湧き上がってくるはずだ。