明日の君に会いに行く

絶え間なき離婚危機と戦うブログ

【読書感想】グランドマンション/折原一

叙述トリックの名手、折原一さんの「グランドマンション」を読んだ。グランドマンションと名前は立派だが、その実はなかなかに築年数を得た賃貸マンションで起こる様々な事件を描いた短編集だ。作者の持ち味がいかんなく発揮されていてかなり面白かった。 

グランドマンション (光文社文庫)

グランドマンション (光文社文庫)

 

折原一さんといえば叙述トリック叙述トリックといえば折原一さん。この人の場合、本当にそれしか書かないので、読者のほうも最初から身構えてしまう。最初の何冊かは本当に面白く驚かされたが、さすがにこっちも次第に慣れてくるものだ。折原作品では、毎回のように語り手が頭を殴られて気を失うシーンがある(この本にもある)。大抵はそのタイミングで時間が飛んだり視点人物が入れ替わったり何かしらのトリックが仕掛けられている。なので最近は、折原作品で頭をポカリとやられる描写があると、「はい来たー!」とむしろ笑ってしまうようになっていた。

 

もう折原作品を純粋に楽しむことはできないのかなあ…と思っていたところだったが、この作品は久々に素直に面白く読めた。やはり短編集なので、こちらが身構えたりいろいろと考える間もなく勢いで押し切れるのが良いのかもしれない。やっているのはいつもの、時間の錯誤や場所の入れ替え、視点人物の切り替えなどお馴染みの技ばかりなのだが、短編ごとに次々と繰り出されると意外と騙されてしまった。

 

「音の正体」は、騒音に頭を悩ませる男の話だ。頭上から響く、子供が出す騒音に迷惑している男は、上階の部屋にクレームを入れる。すると、そのたびに響いていた赤ちゃんの泣き声や子供の騒ぐ音がピタリと止まってしまう。上階に住む母親が派手に遊び歩いているのを知った男は、自分のクレームが引き金になって、虐待死が起きてしまったのではないかと疑うのだが…。最後にすべてがひっくり返る一撃が見事な一編。

 

「304号室の女」では、グランドマンションの販売会社の女性と、入居者の男女の視点が交互に描かれる。販売会社の女性は、上司と親密になっていくが、あることがきっかけで上司に疑念を抱く。一方入居者カップルの女性は、夫の浮気相手が販売会社の女性ではないかと疑う。途中で明らかに不自然な描写があってひっかかっていたが、納得と同時に驚愕かつ脱力の結末が待っていた。

 

その他、どの短編も意外性とコミカルな軽さという作者の持ち味が出ていて、楽しく読むことができた。たまには社会派の重たい話もいいけど、ミステリはこういう気軽に読めて楽しめるのが一番だよなあ、としみじみ思った1冊だった。