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【読書感想】ifの悲劇/浦賀和弘

浦賀和弘さんの「ifの悲劇」を読んだ。相当にトリッキーな構成のミステリで、この手の小説を読みなれた読者でも大抵は騙されてしまうのではないか。「騙し」「驚き」とという一点においては、かなりレベルの高い作品だった。 

ifの悲劇 (角川文庫)

ifの悲劇 (角川文庫)

 

とかいいつつ、実はこの本を読むのは2回目だ。タイトルを見て、なんとなく見覚えあるなーと思いつつ買ってみて、プロローグを読み始めた瞬間思い出してしまった。しかし、肝心のトリックは全く記憶になく、読み終わった今も以前読んだ時のことは完全に忘れ去っており、新作として読むことができた。自分の記憶力の無さを喜ぶべきか嘆くべきか、微妙な感情が渦巻いている。

 

プロローグは、小説家の花田欽也が次回作の構想について編集者と交わしている会話から始まる。パラレルワールドをテーマにした小説で、些細な事柄をきっかけに枝分かれした世界を並行して描くようなものらしい。実はこの花田、最愛の妹を失ったばかりである。その死の原因は、妹の婚約者であった興津という男にあると確信した彼は、興津殺害を決意し、計画を練る。それは、自分が住む網走と興津が住む夕張の、300キロという距離を利用したアリバイトリックによるものだった。

 

そして次の章から、花田の作品構想そのままに、「犯行直後に目撃者を殺害した場合」と「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」という二つのストーリーが並行して進んでいく。前者は、首尾よく殺害を終えた後、帰宅の途中で人をひき殺してしまうというパターン。後に、ひいた相手もまた興津に害意を持つ人物だということが判明し、二重の殺害を隠蔽しつつ、二人目の犠牲者に一人目の殺人の罪を着せようとする展開になる。後者は、危うく交通事故は回避するが、後にその相手から付きまとわれ、次第に窮地に追いやられていく展開だ。

 

ちょっとした違いから展開がかわるパラレルワールドものとして、なかなか面白い試みだと思い読んでいくと、ところどころに違和感を覚える。目撃者を殺した、殺さなかったの運命のいたずらで変化したということでは説明できない違和感である。最後の最後、二つのストーリーがともにエンディングを迎えた段階でも、キツネにつままれたような感覚で終わってしまうかもしれない。衝撃の事実の全ては、エピローグで明らかになる。

 

なにはともあれ、これだけの大仕掛けのトリックを最後まで隠しおおせた作者のテクニックは見事というほかない。まあ、私が鈍いだけかもしれないが。ただ、ちょっとした前振り一つで、読者はやすやすと作者にコントロールされてしまうものだと痛感した。作者に翻弄される感触を久々に味わえた1冊だった。最近ミステリーでびっくりしてないな、と思っている方にはおすすめだ。