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絶え間なき離婚危機と戦うブログ

【読書感想】迫りくる自分/似鳥鶏

似鳥鶏さんの「迫りくる自分」を読んだ。似鳥さんの作品は結構読んでいるのだが、巻き込まれ型の男の子が推理する学園ものとか、動物が出てくる話とか、ドラマ化された戦力外捜査官とか、わりとコメディよりの「ゆるい」作品が多い印象だった。しかし本作はその印象を180度変える、路上生活サバイバルあり、ヤクザとの大立ち回りありのハードボイルドな内容だった。そしてめちゃくちゃ面白かった。 

迫りくる自分 (光文社文庫)

迫りくる自分 (光文社文庫)

 

 コンビニチェーンの会社に勤める主人公は、ある日すれ違う電車の車内に自分にそっくりな男を見る。そのしばらく後、偶然にもバーでそっくり男と再会。顔が似ている者同士、相席して酒を飲みながら語り合うことになった。その日から、主人公の平穏な日々は終わりをつげ、やがては身に覚えのない罪で警察に追われる身となるのだった…。

 

携帯に謎の着歴が残るところから始まり、会社や自宅を警察に張られ、必死に逃げ出す。自分ならこんなシチュエーションで1時間どころか10分とても逃げられない自信があるが、本作の主人公・本田は、実務面でも頭脳面でも有能かつ逆境にも折れない鬼メンタルの持ち主であり、結果的には運にも恵まれて警察からの逃亡生活を続けることになる。次々と場所を変え、髪型や服装も変えながらの逃亡劇はスピード感があって飽きさせない。

 

その合間合間には、本田の兄と同僚の女性のシーンが挟まる。この二人は連絡が取れない本田の身を案じており、独自の動きで事件を調べることになる。何しろ本田とは電話一つできないので二人のシーンには大きな動きはないのだが、息をもつかせない逃亡シーンの間に二人の会話が挟まることで、読んでいるほうも適度にクールダウンされる気がした。

 

冒頭にも書いたけれど、本田の逃亡シーンがこの作品の肝だ。警官とのチェイス、公園でのサバイバル、ヤクザとの立ち回り。それ以外にも大けがやら食糧難など、トラブルは次々に押し寄せてくる。しかし、見どころはそれだけじゃない。さすが、コンスタントにレベルの高いミステリ作品を発表している作家さんだけあって、巧みに張り巡らせた伏線を生かした決着の付け方は見事。ラスト50ページでの展開には驚かされた。

 

本田がどうやってここから逆転するのか、はたまた逃亡生活の果てに名を捨てて生きていくことになるのか。気になった方は、本書を手に取って、その結末をぜひ見届けてほしい。