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絶え間なき離婚危機と戦うブログ

【読書感想】私の命はあなたの命より軽い/近藤史恵

近藤史恵さんの「私の命はあなたの命より軽い」を読んだ。

 

 はじめての出産を間近に控えた遼子は、夫が突然半年間の海外赴任に旅立つことになり、大阪の実家での里帰り出産をすることになる。久しぶりに帰った実家は、何かが変わっていた。仲が良かったはずの妹と両親の間には会話もなく、素直で明るかった妹の表情には影がよぎる。おまけに、両親が終の棲家として買ったはずの家を手放す話が持ち上がっているらしい。なにより、自分の出産をめでたく祝ってくれる雰囲気がない…。家族に、一体何が起きたのか?

 

いきなり、不穏な空気で始まり、何があったのかと引き込まれていく。引き込まれていくのだが、なかなか何も起きないしわからない。100ページ、150ページと読み進めても、ほのめかされるばかりで何も起きない。もしかしたらこのまま何も起きないで終わるんじゃないかと思ったほどだ。なんかあるぞ、怪しいぞ、だけでここまでひっぱる近藤さんの筆力は本当にすごい。全く点が入らないスポーツの試合を、面白く描写することがどれだけ難しいことか。近藤さんは、この作品でまさにそれをやっている。

 

そして緊張感が究極まで高まった終盤、とある事実が明らかになるとともに、真実がドミノ倒しのように連鎖していく。これまでにばらまかれた不穏のかけらが一気に砕け散り、後には崩壊した家族の姿が残る展開は鮮やかだ。それまで見えていたもの、信じようとしていたものががらんどうの張りぼてだったと知った遼子とともに、私も衝撃と虚しさがないまぜになったような感情を味あわされた。

 

さて、本作は妊娠・出産をテーマにした作品だ。なので、必然的に、主人公の遼子をはじめとした女性陣が話の中心になっていく。一方、男は役立たずの傍観者という扱いである。口ではもっともらしいことを言っていながら、虚勢を張るばかりでむなしい張子の虎だ。読んでいくうちにそういう構造には気が付いていたものの、物語の巧みさに目が行っていたので特に気にならなかった。が、あとがきでも「とんちんかんな感想を言う男性読者」をわざわざ登場させてまで男性批判を重ねていたのはいささか蛇足でなかったかとは感じた。

 

作者の思想というか思考が駄々洩れていて気になった部分はあるものの、話としては文句の付け所がないほど面白かった。これはおすすめ。