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【読書感想】望郷/湊かなえ

湊かなえさんの「望郷」を読んだ。読んだ感じ、かなり地味な内容の短編集だったが、これですら収録作のほとんどがドラマや映画で映像化されているらしい。湊作品の映像化率すごすぎでしょ。

 

望郷 (文春文庫)

望郷 (文春文庫)

 

 私はミステリ系の短編集だと、個々の作品は完結していつつ、全体でつながって真相が明らかになるタイプの連作短編集が好きなんだけど、この本はそういう感じではない。一応、瀬戸内海の架空の島とその島にゆかりのある人々が登場するという点でゆるくつながっているが、ストーリーとしてのつながりはない。

 

殺人事件が起きてトリックがあって…という普通のミステリではなく、とはいえいわゆる日常の謎系ミステリというほどには軽くなく、強いて言えば「人生の謎」ミステリというところ。この島で暮らした人々の半生を振り返りながら、その中に隠された謎を紐解いていく。

 

個人的にミステリ色が強く一番面白かったのは、冒頭に収録された「みかんの花」だ。閉鎖的な島を嫌い都会に出て作家として大成した姉と、島に残った妹。二人の人生を対比させながら、かつて島で起きた一つの事件が浮かび上がってくる仕掛けだ。何回もひっくりかえされる真相。それと同時に、姉についての印象がくるくる変わるのも面白かった。短い中に、ミステリの醍醐味が詰まった短編だ。

 

それから「夢の国」も良かった。この夢の国とは、ドリームランドというテーマパークなのだが、明らかに千葉県にある有名なスポットをモデルにしている。映像化の際にはリアル夢の国で撮影するのかな?無理かな? 幼いころからドリームランドにあこがれながら、新しいものを嫌う家にしばられ訪問することがかなわなかった女性が、自分が結婚し子を産み、家族とともに初めてあこがれの地を訪れる。一見なんてことない話なのだが、終盤、回想パートでのとある「描かれなかった1行」の意味が明らかになる。

 

それから「雲の糸」も印象に残っている。歌手としてメジャーになった青年が、旧友の誘いで島に帰郷し、とあるイベントに参加させられる。彼は家庭の事情で島時代には大変苦労したのだが、久しぶりに帰ってきた島で、かつての悪夢をよみがえらせるような体験をする。とにかくこのくだりの胸糞の悪さがすごい。人間の嫌なところをこれでもかと描きだす湊さんらしい作品だと思う。そして、最後には意外と爽やかに締めるあたりの意外性もしかり。

 

これがすごい!というほどの強い印象を受けるものはなかったが、さすがというか、すべてに完成された短編集だった。これはおすすめ。