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【読書感想】水の棺/道尾秀介

 道尾秀介さんの水の棺を読んだ。水の中にいるようにどこか重苦しい世界の中、水面から顔を出そうともがく少年と少女の成長と救済の物語という感じ。

水の柩 (講談社文庫)

水の柩 (講談社文庫)

 

 中学2年生の逸夫は、ダムに沈んだ村の近くで旅館を営む家の息子。元女将で今も口うるさい祖母、皆に頼られ明るい母親と対照的に存在感のない父親、年の離れた赤ん坊の弟とともに暮らしている。逸夫はある日、バスに乗ってダムに向かう。約1年前、クラスメイトの少女・敦子が自ら命を絶つためにダムに向かった道のりを追うように。

 

同じ係になったことがきっかけで、クラスメイトの敦子と話すようになった逸夫。二人は同じ小学校の出身で、小学校卒業の時に、学校の庭にタイムカプセルを埋めていた。敦子は、その中に入っている【20年後の自分への手紙】を取り替えたいと思っている。小学校時代、いじめをうけていた敦子は、自分をいじめていた相手を告発する内容を手紙に書いていたのだが、いじめがなくなった今、その過去を忘れるためにも、手紙もなくしてしまいたいのだという。逸夫は、敦子と協力して、小学校に忍び込みタイムカプセルを掘り返す計画を立てるのだが…。

 

逸夫は、傾きかけた旅館の息子としての人生をつまらないと思っていて、どこか外に出たいと漠然と考えている少年だ。敦子に助けを求められたことで、ある種ヒロイックな願望を満たせるのではないかと期待するが、次第に、敦子もまた、自分よりももっと深い闇を抱え、地面をはいずるような思いで生きていることに気がつく。気が付くのだが、ただの中学生である自分になにができるのか。無力感に抗いながらも壁を破れないでいる。

 

その壁を破るきっかけになるのが、彼の祖母、いくだ。いくは、外面上は年をとっても声が大きく、元気でうるさい老婆としてふるまっているが、実は彼女にもまた、封印していた過去があった。いくの秘密に触れた逸夫は、人は見かけどおりではなく、それぞれに内側の顔を持っているのだと知り、敦子の内面に踏み込んでいく決意をする。

 

いくと敦子という、内面を隠している二人の女性を救おうとする逸夫が、その過程で自分の殻をこそやぶり、今まで薄皮一枚隔ててどこかよそ者の気分でみていた世界や他の人々の中に自分自身に居場所を見つけていくという、いわば二重の救済の構造になっている。一人一人の結末を見れば、決してハッピーエンドというわけではないけれど、全体のトーンとしてはとても明るく、未来に向かって開かれるような印象を受けた。

 

もちろん道尾作品ならではの「仕掛け」も健在。現在と過去、そして遠い過去という3つの時間軸における物語が時に交錯し、読者を幻惑する。いつもながら、優れたストーリーの中にも読者を楽しませるサービス精神を忘れない、道尾クオリティには感心させられた。ぐいぐい引き込まれるようなタイプの作品ではないけど、じっくりと読みたくなる良作だ。